こんにちは。

産婦人科専門医で、小・中学、高校などで生と性、健康教育もおこなっている、Norikoです。

診療(外来、分娩、オペなど)のほかに、医学生の教育や授業、男女共同参画活動などもしています。

高校生の皆さんの健康と将来のために、役立つ情報をお伝えしたいと思います。

今回のテーマは、「子宮頸がんワクチン」です。

子宮頸がんとは?

子宮の入口(頸部)にできる癌(図1)で、20~30代の若い女性に多く、日本における30代の罹患率は乳がんに次いで2位です。原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV:human papilloma virus)の感染です。HPVは性行為でうつりますので、性感染症(STD:sexually transmitted disease)の一つです。

セックスで、がんになるウイルスに感染するなんて、恐ろしいと思いませんか?

しかも、子宮頸がんは、初期はほとんど症状がなく、不正出血(月経以外の出血)、下腹部痛などの症状が出たときには、すでに進行している場合も少なくありません。

初期の場合は、子宮を残し入り口だけを切り取る手術ができますが、進行がんになると、子宮を手術で摘出し、抗がん剤治療や放射線治療が必要で、これらの治療を行っても命を失うこともあります。

子宮頸がんは、日本では毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかり、約3000人が亡くなっています。

子育て世代の20~40代に多く、幼い子どもを遺して亡くなることから、別名「マザーキラー」ともいわれます。

図 1

HPVとは?

HPVは、皮膚や粘膜に感染するウイルスで、150種類以上あり、このうち15種類ほどが高リスク型で子宮頸がんの原因になります。子宮頸がんの原因となるHPVの代表は16型と18型です。低リスク型は、尖圭コンジローマという、いぼの原因になり、この代表が6型、11型です。

高リスク型HPVに感染してもほとんどが自然に排除されますが、感染が長く続くとがんになることがあります。また、高リスク型HPVは、機会があれば何度でも感染します。性行為のある女性の50-80%が生涯で一度はHPVに感染するとされています。

男子には関係ない?

男性に子宮はないので、HPVに感染しても子宮頸がんにはなりませんよね?でも、中咽頭がん(喉のがん)、陰茎がん(ペニスのがん)、肛門がんの原因になります。つまり、男女関係なく、かかる可能性があります。 

海外では男子もHPVワクチンを受けているのは、知っていますか?

なんと、世界では77か国で男子接種が承認され、24か国で公費接種(国の補助金で支払われるため、本人負担なし)が行われています。

オーストラリアでは、15歳女子の80%近く、15歳男子の75%でHPVワクチンが接種されており、子宮頸がんの根絶に成功する最初の国になると見込まれています。

男子のワクチン接種のメリットは、「男性から女性への感染を防ぐ」「男性自身の感染を防ぎ、咽頭がんなどのがんを防ぐ」ことです。

子宮頸がんを予防する方法は?

HPVワクチンを接種することで、HPVの感染を予防することができます。また、ワクチンでは100%防ぐことはできないため、定期的な子宮頸がん検診が必要です。

HPVワクチンについて

日本では2010年度から HPV ワクチン接種の公費助成が開始され、2013年4月に予防接種法により定期接種化されました。 しかし、接種後に様々な症状が報告されたことにより、同年6月に接種の積極的勧奨の差し控えとなったまま約7年が経過しました。1994年から1999年生まれの女子の HPV ワクチン接種率は70%程度ありましたが、2000年度以降までの女子では摂取率が激減し、現在の日本の接種率は0.6%となっています。

世界保健機構(WHO)は、日本を名指しで非難し、「ワクチン接種勧奨中止は、乏しい証拠に基づいた政策決定であり、日本は子宮頸がんを予防する機会が奪われている」と日本を批判する声明をだしました。。

2020年10月、厚生労働省から全国の市町村に、「個別通知によりHPVワクチンの接種機会を確保するように求める」と通知がありました。

表1. ワクチンの種類と標的のHPV型(文献2より作図)

シルガード9は、子宮頸がんの90%前後が予防可能になるといわれており、日本でも2020年7月に承認されましたが、公費接種はまだ行われていません。

また、ガーダシルは、2020年12月に男性への接種の適用が拡大されましたが、まだ男性は公費接種の対象になっていないので、  自費で接種することになります。

2021年1月現在、対象年齢(小学校6年生~高校1年生)の女性が公費接種で受けられるHPVワクチンは、サーバリックスとガーダシルで、これらは、子宮頸がんの約65%、若い女性の子宮頸がんの80~90%を防げると期待されています。  

日本では、高校生2年生以上の女性と、男性は、現在は公費接種が受けられないので、自費で受けることになります。

ワクチン接種は3回あり、すべて接種し終わるまでに半年かかります。接種券は高校1年3月末までしか使用できませんので、高校1年生の9月末までに1回目を接種するようにしましょう。

参考文献

  1. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))
  2. 日本産婦人科医会研修ノート No106 思春期のケア
  3. 厚生労働省 HPVワクチンQ&A
  4. Suzuki S. et al, Papillomavirus Research 5: 96-103, 2018
  5. 子宮頸がんとHPVワクチンに関する最新の知識と正しい理解のために.日本産科婦人科学会.第3.1版2020年.

ゲストライター:産婦人科 Dr. Noriko

産婦人科専門医、医学博士のワーキングマザーです。診療、教育、研究のみならず、小・中学校、高校などで、性やライフプランについての講演活動もしています。高校生のみなさんに、役に立つ情報を発信したいと思います。よろしくお願いいたします。