はじめに

今週末の1月 16 日(土),17 日(日)に、新方式の大学入学共通テスト の実施を前に、いま最後の追い込みの受験生も多いことでしょう。例年にない状況下で、不安は否応にも増していると思います。罹患しないことが一番ですが、どんなに注意しても感染リスクはゼロではありません。受験生本人が陰性であっても、家族感染等で濃厚接触者になり保健所から外出自粛を要請された場合など、様々なケースがあります。既に学校や予備校から注意喚起が散々行われているとは思いますが、必要な場合は以下の公式HPのQ&Aをご参照ください。
令和3年度大学入学共通テストにおける新型コロナウイルス感染症対策に関するQ&A(1月9日更新)
今回はコロナ渦での試験として、特例追試験も2月に設定されています。
・特例追試験(2月 13 日(土), 14 日(日))
いずれにせよ、焦らず慌てず冷静に、ご家族とも相談されて対応して下さい。

睡眠はパフォーマンスを左右する

睡眠の重要性

受験目前の皆さんにぜひお伝えしておきたいのは、睡眠の重要性です。特に直前期の鍵は
・十分な睡眠
・バランスの良い食事
・適度な休息
ですが、中でも睡眠は最も当日のパフォーマンスを左右し、寝不足状態では日頃の6割以下の力しかでないとの研究成果もありますので、寝ない自慢はナポレオンに任せておいて、皆さんはしっかり睡眠時間を確保してください。
睡眠と脳やパフォーマンスの関係に関する研究報告では、慢性的な睡眠不足が脳に破壊的ダメージを与えることを明言しています。*文末(1)参照
睡眠不足は脳の働きを鈍くさせ、死期が早まる傾向も示唆しています。

『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』 (日本語) – 2017/2/24
ショーン・スティーブンソン  (著), 花塚 恵 (翻訳)


もし眠れなかったら?

理想の睡眠時間は7~8時間とされますが、
・いまさらそんなに寝られない、
・前夜はドキドキして眠れない、
という人もいるかもしれません。でも、焦らなくて大丈夫です。
そんな時は、
・部屋を暗くして
・静かで心地よい環境に身を置き(好きな音楽などを聴いたり)
・リラックスする時間を5分でも10分でも勉強の合間に取り入れる
をやってみて下さい。
それ以外にも瞑想のアプリが無料でもいろいろ出ていますので、検索して試してみて、好みのものがあれば短時間でも良いのでやってみましょう。
そうなってリラックスと緊張の合間を行き来することを習慣化し、それをコントロールできるようになると、メンタル・マネジメントの熟達にも繋がります。大人であってもまだまだトレーニングが必要な領域ですので、受験期からトライして体得できていたら、一生使える技になります。

受験で体得できる将来使える技ー全力投球の練習

受験を通して得られることの中で特に注目してほしいのが「全力投球の練習」です。受験当日にピークパフォーマンスを実現するために、様々なアスリートが取り組んでいるものも参考になると思いますが、
『選手がピークパフォーマンスを発揮するためには特に心理的コンディショニングが最終的なパフォーマンスの発揮に強く影響を及ぼすと考えられている。心理的コンディショニングには「身体的リラックス」,「落ち着き」,「不安の解消」,「意欲」,「楽観的な態度」,「楽しさ」,「無理のない努力」,「自然なプレイ」,「注意力」,「精神集中」,「自信」,「自己コントロール」という 12 の特徴がある。これらを整えて大会当日に臨むことがピークパフォーマンスの発揮を促進すると予想される。』引用、日本体育大学紀要(Bull. of Nippon Sport Sci. Univ.),46 (1),51–58,2016。他より引用*文末(2)参照

皆さんにとって、どの要素が最も重要ですか?どんな環境や流れが大事ですか?
人はみな価値観や人生の優先順位が異なるので、「全力発揮するには自分の場合は何が必要なのか」をご自身の個性とともにそれをセットで把握しておくことは大変重要です。いまは目指す大学に受かるかどうか、努力しただけの成果が点数に現れるか、に神経が集中すると思いますが、今回の受験は「全力発揮のトレーニング」でもあります。
どこかで「どうせ自分はこれくらいだし」と諦めてしまったりする時はありませんか?長年の学校生活の「慣れ」で、程々の努力でほどほどの成果を出すことに慣れてしまっていて、全力発揮をすべき「いざという時」に思ったほどの力が出せなくなっている、ということはないでしょうか?
例えば、本当は100ある力を常にほどほどの60や70レベルで済ませていると、いざという時でもせいぜい80までしか出ない、ということが多々あります。とても勿体ないことだと思いませんか?

よく大学院の講義で伝えているのは、意識的に120以上の力を出す機会を作り、それをトレーニングとして取り組むことで潜在力を引き出し、本来の力をより発揮しやすい仕組みを自身の中に作り出すことが、結果的に潜在力も顕在力の双方を磨くことになる、ということです。逆に、それをしておかないと、いざという時に100以上を出せなくなります。力はあるのに出せないなんて、そんな残念なことはありません。
中には、あがり症で本番に弱い、すぐにお腹が痛くなる、頭が真っ白になる、という人もいるでしょう。それは決して少数派ではなく、多くの受験生が体験することです。けれども、恐れていても始まりません。自分にはそれが起きやすいのだとしたら、それも含めてご自身の特性ですので、そのような中でどこまで実力を発揮できるかのテスト(トライアル)を繰り返すチャンスと捉えてみてください。
ご自身の120以上の力を出す経験を積み、コントロールできるようになれば、鬼に金棒です。ぜひ、受験を通してそうしたトレーニングを積んで下さい。ご自身に最適な方法を見出すことができれば、必ず将来に生きてきます。

自分オリジナルの「学びの熟練工」になろうー一生使える学習方法を体得しよう!

人は生涯に亘って学び続ける存在ですが、現代のIT時代においてはそれがさらに加速しており、日々必死に学んで世の中の変化に追いつくことが必須になってきています。学校での学び方には答えが用意されていましたが、社会に出ると課題の設定から答えの到達まですべて自力になります。いまはまだ練習段階なのです。
なんでも検索で乗り切れるし、ググれば良い、という考え方もあると思いますが、そもそもその検索された情報をきちんと読み取って活かすためには、基本的な読解力が不可欠です。今みなさんが取り組んでいる勉強は、目の前の入試を突破するだけにあるのではなく、生涯勉強の時代を生き抜くための「最適な学習方法」を見出し、それを身につけるためのトレーニングでもあるのです。

そして、この受験期に特に重要なのは、自分にあった学習方法を見つけ出し、鍛錬し、学びの熟練工になることです。
人それぞれに適した学習法があります。例えば英語学習においても、学校では読み書きが中心ですが、音声による耳読や反復練習、音楽を使ったチャンツなどが得意な人は学校卒業後の人生で飛躍的に英語力が向上することが多々あります。私もその一人で、浪人するまで英語は一番不得意でした。
また、身体感覚に優れた人は、実際に英語を使う場でボディランゲージを交えて対話することで表現力が磨かれ、暗記できなかった単語が身体感覚とともにすっと入っていくことも多いそうです。個々の能力判定*文末(3)参照

心から喜び楽しめるものこそが「最適な方法」

いろんな学習方法を試す際は、皆さんの心と体が喜んでいるか、に注目してみてください。人は生まれながらにして学ぶことに喜びを感じられる要素をもっています。小学校に入学した時にワクワク感を思い出してみて下さい。あれを取り戻すのにどうしたらよいのか、を。なぜなら、そこに「最適な学習法」のヒントがあるからです。
いまさら、と思われる方もあるかもしれませんが、最後の追い込みの時期だからこそ、皆さんの心と体が喜ぶ方法を見つけ、それに浸って、本番へのエネルギーを蓄えて欲しいのです。
「結果は後からついてくる」けれども、望む結果を導くのは「楽しんだもの勝ち」です。私達人間の本能の中で、学びは本来楽しいものと設定されています。残念ながらいまの学校システムの中でそれを実感できない人も多いかもしれませんが、どうすれば学びを楽しめるかを、ぜひ探求してほしいのです。必ず、ご自分に合った「楽しめる学びの方法」があります。もしいま楽しくないとしたら、まだその最適な方法に出会っていないだけなのです。
「好きこそものの上手なれ」という諺があります。好きなことには夢中になれるし、時を忘れて没頭できますよね。ゲームが好きな人は日が暮れても明けても、いくらでもやっていられるし、抜群の集中力を発揮させたりします。それこそが皆さんの力の源泉であり、好きで楽しいと思えることに、皆さんの最適な学びの方法への鍵があります。

学歴より大事な「学習歴」

皆さんが大学受験される理由のひとつは、今後生きていく上で日本の学歴社会を生き抜く手形を獲得することだと思います。
学歴はその人の18歳時点での学習能力の証明にはなりますが、その意味は次第に変化しています。この学歴社会がどこまで続くのかはわかりません。いまのコロナ渦を誰も想定できなかったように、未来は常に不透明ですし、オンラインで全世界が繋がるいま、日本国内での社会的序列を決定するこの仕組が崩壊するのも、そう遠くないことと予測する人々もいます。
また、良い学歴が手に入ったからと言って、それで必ず幸せになれるとも限りません。そうでない方々を私はたくさん見てきました。
では、どうすれば良いのでしょうか。
何歳になってもいつも笑顔で幸せそうで、周りにいつも人が集まってくる人になりたいとしたら、その人達に共通しているのは「三毒(妬む・怒る・愚痴る)追放」を徹底し、読書やオンライン勉強会などを通じて日々楽しそうに学び、心に余裕をもって周りの人を大切にしていることです。
自分に相応しい学びの技を体得することをオススメする理由がここにあります。みなさんには幸せになってほしいのです。受験という仕組みを、ぜひこの学習歴を更新し続けるための手法を手に入れる機会と捉え、生涯にわたって皆さんの学びを支えることができる自分なりの学習方法を体得する機会にしていただき、それぞれの幸せ道を歩んでいってください。
幸運を祈ります。
Good Luck!


*トップのアイキャッチ画像は今回も副業カメラマンのkikutti_さんのご厚意で掲載させていただきました。宮城県のリボーン・アートフェスティバルのWhite Deerです。古来から神獣(神の使い)とされる鹿の神々しい姿に、受験生の皆さんのご武運を祈ります。アート作品が被写体ですので商業利用はお控え頂き、転用等をご希望の場合はkikuttiさんにも必ずご連絡を差し上げてください。


(1)”Sleep Loss Promotes Astrocytic Phagocytosis and Microglial Activation in Mouse Cerebral Cortex”、Michele Bellesi, Luisa de Vivo, Mattia Chini, Francesca Gilli, Giulio Tononi and Chiara Cirelli
Journal of Neuroscience 24 May 2017, 37 (21) 5263-5273; DOI: https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3981-16.2017
https://www.jneurosci.org/content/37/21/5263

(2)日本体育大学紀要(Bull. of Nippon Sport Sci. Univ.),46 (1),51–58,2016。【短報】ピークパフォーマンスの発揮へ向けた心理的コンディショニングに関するワークシートの作成と試験的実施
平山 浩輔1),髙井 秀明2),本郷 由貴2),西山 哲成3) 1) 体育研究所 2) スポーツ心理学研究室 3) スポーツバイオメカニクス研究室
Creation and experimental implementation of worksheets for psychological conditioning aimed of peak performance
Kosuke HIRAYAMA, Hideaki TAKAI, Yuki HONGO and Tetsunari NISHIYAMA
(Received: May 9, 2016 Accepted: June 9, 2016)
https://core.ac.uk/download/pdf/144415673.pdf
また文中の『心理的コンディショニング~12の特徴がある』部分は以下より引用されている:菅生貴之:試合に向けてピークにもっていくための 心理的コンディショニング.実力発揮のための心理 的スキルのトレーニング 日本スポーツ心理学会 (編)スポーツメンタルトレーニング教本 改訂増補 版,大修館書店:東京,2010.

(3)幸せ人生の学び方・育て方(高校生&保護者向け)1-③ MIチェックで自分の能力を掴もう